喘息は苦しい激しい咳 |
■ 喘息の管理と治療
1. 喘息の自己管理(セルフケア)とQOL
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喘息の状態が続くと、他の慢性疾患と同じく患者の日常生活が影響を受け、肉体活動、精神活動および社会活動が妨げられ、患者が幸せな満足のいく生活や人生が送れなくなります。すなわち生活の質、生命の質(QOLと言います)が悪くなります。このQOLを向上させるには、病状をコントロールし、発作のない状態を保ち、正常な肺機能を維持し、健康な人と変わらない日常生活ができるように適切な自己管理を行うことが大切です。自己管理とは、医師との対話を通じて喘息という病気や治療法を良く理解し、自分の喘息の状態とピークフローの測定値の変化に自ら適切に対応して急性発作や増悪を予防することです。医師からの指導を守るだけではなく、自分の健康は自ら守るという積極的は取り組みが重要です。
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2. 喘息の重症度
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自分の喘息の状態がどの程度悪いのか知ることは、喘息を自己管理する上で極めて重要です。それによって治療方法も変わりますし、対処によってはこの後の喘息の経過・予後も決まると言っても過言ではありません。喘息の重症度は、「喘息の予防・管理のガイドライン」(協和企画、1998)を参考にするのが良いでしょう。喘息の重症度を症状の程度とピークフロー値の測定値から4段階に分けています。治療はこの重症度に合わせて段階的に軽い内容から重い内容に変わります。
●ステップ1(軽症間欠型): 喘鳴、咳、呼吸困難が間欠的で短く、週1~2回おきる 夜間症状は月1~2回 ピークフロー値は自己最良値の80%以上、日内変動率は20%以内
●ステップ2(軽症持続型): 症状が週2回以上、月2回以上日常生活や睡眠が妨げられる 夜間症状は月2回以上 ピークフロー値は自己最良値の70~80%、変動率は20~30%
●ステップ3(中等症持続型): 症状は慢性的、週1回以上日常生活や睡眠が妨げられる 夜間症状は週1回以上、吸入β刺激薬の頓用が毎日必要 ピークフロー値は自己最良値の60~70%、変動率は30%以上
●ステップ4(重症持続型): 症状が持続、しばしば増悪、日常生活が制限され夜間症状も頻回 ピークフロー値は自己最良値の60%未満、変動率は30%以上 ※
日内変動率とは、ピークフロー値の変動する割合のことで、大きいほど症状が不安定
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3. ピークフローについて
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成人の喘息は、治療しなくても症状がない状態(寛解と言います)になることもありますが、高血圧や糖尿病のような慢性疾患と同様に、喘息も医師の指導を受けて自己管理することが大切 です。普通、喘息は外来診療が中心ですので、診察日以外は、日頃自分で喘息の状態を管理し発作の予防と速やかで適切な対処を心掛けねばなりません。それには患者が自分自身の喘息の重症度と増悪因子を判断することが必要です。そのため、喘息日記を記入して喘息発作の強さと回数を知り、さらに肺機能を客観的に評価するため自分で携帯用ピークフローメーターを使ってピークフロー値を測定します。これらの記録をみて医師はその後の治療の方法や指導の計画が作成でき、患者は自分自身の症状と薬剤の効果を実感できるのです。ピークフローの値は、喘息の発作症状が出るより2~3日前に下がることもまれではありません。その場合にはたとえ発作を感じなくても治療薬を増量あるいは早めに使用するようにします。また、喘息の長い患者は、良い状態と見えてもピークフローは予測値の半分ということがあります。これは、肺機能の低い状態に慣れて呼吸困難を感じなくなっているのです。重症化しやすいので適切かつ充分な治療を必要とするケースです。 自己管理の目安としてピークフローの測定値が予測値あるいは自分の過去の最良値の80%以上かつ一日の変動率が20%以下であればコントロール良好で安心できます。50~80%は要注意で治療の追加が必要ですし、50%未満は緊急事態ですので直ぐ医師に受診する必要があります。 ※携帯用ピークフローメーターの機種には、ミニライト、アセス、バイタログラフなどがあります。詳しくは、医師にきいてください。
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4. 喘息の治療の基本
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喘息は、遺伝因子と環境因子が絡んだ病因が不明な病気です。喘息体質と一括されています が、いまだ根本的に治癒させる治療法はありません。現在、最善の治療は、気管支の炎症を起こして気管支を収縮させる原因やアレルゲンを除去すること、薬物療法により気管支の炎症を抑えて気管支を拡張し、気流制限と過敏性を改善して日常生活と肺機能を正常化し、患者のQOLを高めることです。一方で、この体質を変えようとする治療法も昔から試みられてきました。その一つがアレルギー性喘息に対する減感作療法です。アレルゲンを定期的に患者に注射し、患者のアレルゲンに対する反応を変調させること(体に一種の慣れを作る)により喘息を改善するという治療法ですが、すべての患者に有効なわけではありません。最近、人の全遺伝子の解読が終わり、その塩基配列が発表されたところですが、多くの遺伝子が関係している喘息体質の実態が明らかになれば発病を予防したり、体質そのものを無くする治療法が生まれるかもしれません。
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5. アレルゲンの除去方法
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気管支喘息は遺伝的因子(アトピー素因、気道過敏性など)と環境因子が絡み合って、気道の炎症と過敏性の亢進が生じて発病すると考えられます。環境因子には、アレルゲンとなる特異的環境因子とさまざまな増悪因子(非特異的環境因子:大気汚染物質や喫煙、薬物、ウイルスの呼吸器感染など)に分けられます。この環境因子を除去することが喘息の発病予防にとても大切です。アレルゲンは、室内と室外アレルゲンに分かれ、室内では家塵ダニ、カビ、ペット、職業アレルゲン、室外では花粉、昆虫アレルゲンが主要アレルゲンですが、喘息の予防は室内の環境対策が重要です。なかでもダニの除去は喘息の発病予防(一次予防)のみならず喘息症状を改善(二次予防)し、慢性化と重症化を防ぎます。生きているダニよりもダニの糞や死骸が細かくなった家塵のほうが喘息に悪いので殺ダニ剤を使うよりも紙パック集塵袋式の電気掃除機を念入りに使う方に効果があります。1週間に1回は寝具類を1m2あたり20秒間かけ吸塵することにより1m2あたり1000匹以下に減らすことが出来ます。(これ以下の数は喘息の発症を減らします)
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(1)
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建築構造の対策:換気をよくする。湿度を抑える。床下の通気を良くする。
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(2)
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室内環境の対策:換気をよくする。家塵のたまる家具を減らす。湿度を上げる。加湿器や暖房器は使わない。じゅうたん類は置かない。
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(3)
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ダニ、カビ対策:湿度を60%以下にする。週1回は掃除がけする。ふとんは週1回、天日に干し、掃除機をかける。
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6. 段階的治療法について
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喘息の治療は、次のような状態を目標に置いています。 (1) 建常人と変わらない生活と運動ができる。 (2)
正常に近い肺機能を維持する。 (3) 夜間や早朝の咳、呼吸困難がなく、睡眠が十分できる。 (4)
喘息発作がなく、増悪しない。 (5) 喘息で死亡しない。 (6)
治療薬による副作用がない。 これらの目標を達成するには、喘息患者の過去の経過と現在の重症度を正確に知り、それを基に生活指導と治療の計画を立てる必要があります。とくに薬物治療については最小限の薬剤で最大の効果を得られることが大切です。そのため患者の重症度を4段階に分け、それに応じて薬剤の使用方法を変えるのです。 喘息の重症度の判定について詳しいことは、「3.診断と検査」のなかに書いてあります。喘息の状態をステップ1(軽症間欠型)、ステップ2(軽症持続型)、ステップ3(中等症持続型)、ステップ4(重症持続型)に分けて、そのステップ(段階)に合わせて治療を開始し、喘息症状の改善が3か月間続いたら薬剤の段階を下げ(ステップダウン)し、薬剤の投与を減らします。喘息状態が悪化し、または現在の薬剤で十分コントロールできない時は治療をステップアップ(治療強化)します。そして喘息症状とピークフロー値を参考に維持治療を決定します。 これが喘息の段階治療といわれるものです。ステップごとの薬物の使用の目安を説明します。 喘息の治療薬は大きく2種類に分けられます。一つは長期管理薬(コントロラー)と言い、喘息症状を軽減・消失させ肺機能を正常化し、その状態を維持させる薬です。これには吸入ステロイド薬、長期作用型の気管支拡張薬と抗アレルギー薬があります。他の一つは発作治療薬(レリーバー)というもので短期間使用する経口ステロイド薬と短時間作用する気管支拡張薬です。ステップ1は、喘息症状のある時に頓用で気管支拡張薬を吸入または経口し、低用量の吸入ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬の連用を考えます。ステップ2は、低用量の吸入ステロイドを連用し、長期作用性の気管支拡張薬と抗アレルギー薬を併用します。ステップ3は、中用量の吸入ステロイドを連用し、長期作用の気管支拡張薬と炎症を抑制する作用のある抗アレルギー薬(抗ロイコトリエン薬など)を併用します。さらに患者によっては抗コリン薬の吸入を行います。ステップ4は、重症の喘息ですので高用量の吸入ステロイド薬の連用に長期作用気管支拡張薬を併用し、時に経口のステロイド薬を短期使用します。いずれのステップでも気管支拡張薬の吸入β刺激の頓用は、1日3~4回までに制限し、それ以上必要な時はステップアップします。
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7. 吸入ステロイド剤の効果と副作用
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喘息は、気道の特有な炎症が原因となって発症する病気です。したがってその治療は炎症を抑えることを目的にします。抗炎症作用の最も強い薬剤はステロイドホルモンですが、経口薬は胃潰瘍、糖尿病、骨粗しょう症、高血圧など全身の副作用があるため吸入ステロイド薬が喘息の治療に用いられています。吸入ステロイド薬を連用すると気道の炎症が取れ、日常の喘息症状が減って重症度が改善し、肺機能と気道過敏性の改善が見られます。また、重症の喘息患者は経口ステロイド薬を長期使用していることが多いですが、高用量の吸入ステロイド薬を使うことにより経口ステロイド薬の量を減らすことは出来、全身性の副作用が減ります。吸入ステロイド薬の局所の副作用は、口の咽頭部のカンジダ症、発声障害、上気道の刺激による咳などがある。これらの多くは吸入補助のスペーサーを使うことにより防ぐことが出来る。吸入ステロイド薬を長期に高用量使用した場合の全身への影響は、副腎皮質の抑制や骨代謝の抑制の報告があります。経口薬より副作用は少ないとしても長期の影響についてこれからも注意深く検討される必要があります。
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8. 気管支拡張剤について
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気管支拡張薬と呼ばれる薬剤には、交感神経のβ受容体刺激薬とテオフィリン薬があります。喘息の長期管理のガイドラインは、両者ともに通常は症状の出た時の頓用を推奨している。β刺激薬の使用は、軽症喘息に吸入あるいは経口薬の頓用を、中等症には長時間作用の経口薬を併用します。吸入β刺激薬の追加頓用が1日3~4回までにとどめ、それ以上使用を連日必要とするようなら現治療が適当でないのでテオフィリン薬の併用か増量、あるいは吸入ステロイドの増量を行います。吸入β刺激薬は発作の初期に使用すると効果が高いのですが、発作が強くなってからでは吸入が満足にできず吸入回数が増えて副作用だけが強くなり危険です。実際は、喘息発作時に吸入β刺激薬を1~2回吸入、20後改善しなければ再度1~2回吸入します。それ以降は経口のβ刺激薬あるいはテオフィリン薬を使用します。夜間から早朝の発作が続くような場合、眠前にβ刺激薬の貼付薬を皮膚に貼ると発作を予防することが出来ます。ベータ刺激薬の副作用には動悸、手の振るえ、不眠、めまいがありますので、患者が高血圧、心臓病、甲状腺疾患、糖尿病などを合併している場合は注意が必要です。 テオフィリン薬も気管支拡張作用のあることが古くから知られていましたが、最近、弱いながら抗炎症作用があることも分かってきました。軽症には頓用で使いますが中等症では長時間効果の続く徐放性テオフィリン薬を使用します。テオフィリン薬の有効血中濃度は8~20μg/mlで、これを超えると副作用が出てきます。副作用は、動悸や不整脈、吐き気と腹痛、不眠や痙攣など多彩ですので血中濃度をしっかりした管理(血中濃度の測定)することが大切です。また、テオフィリンの濃度は、いろいろな因子の影響を受けやすく、心臓病、肝臓病、発熱時やある種の抗生物質や抗潰瘍薬の使用は、テオフィリン濃度を上げるため副作用の発現に注意が必要です。煙草、抗てんかん薬、抗結核薬は濃度を下げてテオフィリン薬の効果を薄めます。
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9. 抗アレルギー薬について
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即時型アレルギー反応に関係する化学伝達物質の遊離および作用を調節する薬剤を抗アレルギー薬といいます。作用の違いによって化学伝達物質遊離抑制薬、ヒスタミン拮抗薬、トロンボキサン合成阻害薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬とサイトカイン阻害薬があり、喘息のガイドラインの軽症持続型と中等症持続型に使うことが推奨されています。(1)化学伝達物質遊離抑制薬は、即時型アレルギー反応における肥満細胞からの化学伝達物質の遊離を抑制する薬剤で、軽症または中等症のアトピー型喘息の30~40%に効果があるますが、効果がでるまでに4~6週間の服用期間が必要です。副作用は重篤なものはありませんが、出血性膀胱炎、ほてり感の出るものがあります。(2)ヒスタミン拮抗薬は、アトピー型の軽症と中等症に20~30%の効果があります。アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などを合併している喘息患者に使うとほかのアレルギー症状にも効果が期待できます。副作用の多くは眠気、口渇ですが、トリルダンやヒスマナールはエリスロマイシンや抗真菌薬と併用したり、肝障害や心疾患の患者に投与すると重篤な不整脈がでることがあり注意が必要です。(3)トロンボキサン合成阻害・拮抗薬は、抗炎症作用もありその有効率は40%ぐらいです。咳喘息に有効な場合があります。副作用は、肝障害、消化器症状、尿潜血などの出血傾向が見られることがあります。(4)ロイコトリエン拮抗薬は、気管支拡張作用があり、アレルゲン吸やアスピリンの吸入、運動負荷による喘息反応を抑制します。抗炎症作用も強く、軽症および中等症の喘息に60%近い有効性があり、効果発現は2週間で現れます。高齢者や非アトピー喘息患者にも有効です。主な副作用は消化器症状で、重篤なものは報告されていません。(5)サイトカイン阻害薬のアイティーピーは、アトピー型喘息に効果があります。
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