慢性腎不全(Chronic renal failure)とは?
① |
慢性腎不全は、一疾患名を示すものではなく、慢性に進行する各種腎疾患によって、不可逆的に腎機能が緩徐に低下する病態です。 |
② |
腎機能低下が進行すると、体液の恒常性(ホメオスターシス)が維持できなくなり、高血圧・貧血・骨代謝異常等、多彩な病態を呈します。 |
③ |
末期腎不全に出現する諸症状を尿毒症といい、血液透析・腹膜透析等、血液を浄化する治療が必要になります。 |
④ |
治療の原則は、原疾患に対する治療です。つまり、緩徐に進行する腎機能障害進展因子の抑制、合併症および慢性腎不全の増悪因子の治療が中心となります。 |
疫学
- すべての腎・泌尿器疾患が原因となる可能性があります。
- 慢性腎不全から末期腎不全へと進行し透析導入に至る原疾患としては、糖尿病腎症が第1位で、次いで慢性糸球体腎炎となっています。
- 糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病腎症による慢性腎不全の割合が増加しています。
成因と病態
慢性腎不全の成因と病態生理は、原疾患やそれまでの治療によっても修飾されるため一概にはいえませんが、腎不全への共通の進展機序としては、糸球体の肥大と硬化および尿細管・間質障害が重要視されています。多くの腎疾患に共通した予後不良を示唆する兆候としては、①持続性の高度な蛋白尿、②高血圧、③腎生検時すでに腎機能低下を呈していること、④腎萎縮を呈すること等が挙げられます。
臨床症状
末期腎不全へと進行するにしたがい、臨床症状は多彩となってきます。原疾患や個人差のため多少の違いはありますが、腎不全の進行度と臨床的な影響を理解するうえで、Kidney
Disease Outcome Quality Initiative(K/DOQI)の 慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)病期分類にしたがい、5期に分けて考えられます。( 表1) ステージ 1, 2は代償機能が働いており、ほとんど無症状です。 ステージ
3に進行すると、残存腎機能の代償が不完全となり、尿量の増加や血清尿素窒素(BUN)の上昇を認め、貧血も軽度出現します。 ステージ
3~4にかけては、体液の恒常性が保たれなくなるため、代謝性アシドーシス、低カルシウム血症や高リン血症等の電解質異常、高血圧・貧血の増悪等、多彩な臨床症状が出現し、増悪します。 ステージ
5では、体液異常の進行とともに、代謝性アシドーシスや高カリウム血症が顕著となり、肺水腫等の高度な尿毒症症状が出現します。生命維持のため透析療法が必要となります。
検査所見
長期にわたる緩徐なBUN, s-Crの上昇や、クレアチニンクリアランス値(Ccr)の低下等の腎機能障害を認め、X線および超音波等の画像検査で腎の萎縮や硬化が認められれば、慢性腎不全と診断できます。 ①血液検査: BUN・s-Crの上昇、血清尿酸の上昇、高カリウム血症、低カルシウム血症、高リン血症、代謝性アシドーシス、貧血 ②腎機能検査: Ccrの低下 ③腹部X線・腹部超音波・腹部CT検査: 腎の萎縮、硬化
治療
治療の原則は、①原疾患の治療、②慢性腎不全の進展・増悪因子の治療、③腎機能障害の進行に随伴する体液異常の是正、④合併症の治療です。一般療法(生活指導、 食事療法(表2))と薬物療法を組み合わせて行うことにより、腎不全の進行を抑制することが重要です。K/DOQIのCKD病期分類に従い、治療方針が検討されます。
ステージ 1, 2では、原疾患の治療と進行性腎障害に共通の進展因子の抑制療法が主体となり、心血管病変の評価とその治療が開始されます。 ステージ
3になるとさらに腎機能障害が進んでいるため、腎機能の増悪因子に注意しながら、進展因子の抑制療法と低蛋白食や塩分制限等の食事療法を強化することになります。腎不全の進行に伴う合併症の評価と治療が必要になってきます。 ステージ
4では、さらに食事制限や薬物療法(経口吸着炭素製剤、エリスロポエチン製剤、高カリウム血症改善薬、高尿酸血症治療薬、高リン血症改善薬、アシドーシス改善薬、ビタミンD製剤等)による代謝異常の是正が強化されます。透析または腎移植の適切な時期を検討することになります。 ステージ
5では、 透析導入基準(表3)に沿って適切な時期に、透析導入または腎移植をすることになります。
表1. 慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)のステージ分類
ステージ |
糸球体濾過率(GFR ml/分/1.73㎡) |
病態 |
1 |
≧90 |
ほぼ正常のGFRを認める腎障害 |
2 |
60~89 |
軽度のGFR低下を認める腎障害 |
3 |
30~59 |
中等度のGFR低下を認める腎障害 |
4 |
15~29 |
高度のGFR低下を認める腎障害 |
5 |
<15 |
腎不全 |
表2. 保存期慢性腎不全の食事療法(日本腎臓学会)
総エネルギー(kcal/kg2/day) |
35が基準。ただし年齢や運動量によって、適正なエネルギー量は28~40の範囲になりうる。 |
蛋白(g/kg/day) |
0.6以上0.7未満。ただしCcr 50ml/分以上で、蛋白尿1g以下であれば0.9前後で開始することも可。 |
食塩(g/day) |
7以下 |
カリウム(mg/day) |
低蛋白食ができていれば通常制限しないが、血清カリウム5.5mEq/L以上のときカリウム制限を加える。 |
水分(ml) |
ネフローゼ症候群およびCcr15ml/分以下では、尿量+不感蒸泄量とする。 |
リン(mg/day) |
低蛋白食が実行できていれば制限しないが、尿中リン排泄量500mg/日以上のときは、リン制限を加える。 |
表3. 慢性腎不全透析療法導入基準
I.腎機能 |
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血清クレアチニン mg/dL (クレアチニンクリアランス
ml/分) |
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8以上 (10未満) |
30点 |
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5~8未満 (10~20未満) |
20点 |
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3~5未満 (20~30未満) |
10点 |
II.臨床症状 |
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1.体液貯留(全身性浮腫、高度の低蛋白血症、肺水腫) |
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2.消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、下痢等) |
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3.循環器症状(重篤な高血圧、心不全、心包炎) |
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4.神経症状(中枢・末梢神経障害、精神障害) |
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5.血液異常(高度の貧血症状、出血傾向) |
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6.視力障害(尿毒症性網膜症、糖尿病性網膜症) |
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これら1~7小項目のうち3項目以上のものを高度(30点)、2項目を中等度(20点)、1項目を軽度(10点)とする。 |
III.日常生活障害度 |
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尿毒症症状のため起床できないものを高度 |
30点 |
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日常生活が著しく制限されるものを中等度 |
20点 |
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通勤, 通学あるいは家庭内労働が困難となった場合を軽度 |
10点 |
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I~III項目の合計点数が原則として、60点以上になった時に長期透析療法への導入適応とする。 |
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**年少者(10歳以下)、高齢者(65歳以上)、高度な全身性血管障害を合併する場合、全身状態が著しく障害された場合等はそれぞれ10点加算。 |
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